「礼服を用意しなければならないけれど、種類が多くてどれを選べばいいのか分からない」
結婚式のお呼ばれ、親族の葬儀、式典への出席。
いざその場面になってはじめて、礼服の種類の多さに戸惑ってしまう。
そんな方を、わたくしどもは店で何度も見てきました。
モーニング、燕尾服、タキシード、ブラックスーツ。
言葉は聞いたことがあっても、それぞれが何を指し、どの場面で着るものなのかは意外と知られていません。
無理もないことだと思います。礼服は一生のうちにそう何度も選ぶものではありませんから。
この記事では、創業から136年、礼服をお仕立てしてきた立場から、礼服の種類と格の違い、「その場面では何を着ればいいのか」をできるだけわかりやすくお伝えします。
1. 礼服とは何か。まず「3つの格」を知る
礼服とは、冠婚葬祭など、あらたまった場で着る服のことです。
ただ、ひとくちに礼服といっても、格式には段階があります。
ここだけ、最初に押さえておきましょう。
礼服には、大きく三つの格があります。
① 正礼装 最も格式の高い装い。
② 準礼装(じゅんれいそう) 正礼装に次ぐ、やや軽い装い。
③ 略礼装(りゃくれいそう) 最も軽い、日常に近い礼装。
そして、それぞれに「昼の装い」と「夜の装い」があります。
フォーマルの世界では、昼と夜で着るものが変わる。これが基本の考え方です。
この「格」と「昼夜」の組み合わせで、着るべき礼服が決まっていきます。
はじめは少し複雑に感じるかもしれません。でも、順に見ていけば決して難しくありません。
まずは「礼服には三つの格がある」。
それだけ知っておいていただければ、この先はぐっと分かりやすくなります。

2. 礼服の種類と着用シーン
では、それぞれの礼服を見ていきましょう。
わたくしどもの店にも、「どれを着ればいいのか分からなくて」とおっしゃって来られるお客様がよくいらっしゃいます。
ですが、心配はいりません。格の高い順に一つずつ見ていけば、自分に必要な一着が見えてきます。
| 格 | 装い | 時間帯 | 着用場面 |
|---|---|---|---|
| 正礼装 | モーニングコート | 昼 | 結婚式の新郎の父・仲人 |
| 正礼装 | 燕尾服(テールコート) | 夜 | 格式高い夜の式典、叙勲 |
| 準礼装 | ディレクターズスーツ | 昼 | 昼の結婚式、式典 |
| 準礼装 | タキシード | 夜 | 夜の結婚式、パーティー |
| 略礼服 | ブラックスーツ | 昼夜不問 | 結婚式、葬儀・法事 |
正礼装 モーニングコートと燕尾服

正礼装は、最も格式の高い装いです。
昼の正礼装が「モーニングコート」。
上着の裾が前から後ろへ流れるように長く裁たれた、格調高い装いです。
結婚式では、新郎新婦の父親や仲人といった主役に近い立場の方が着ます。
夜の正礼装が「燕尾服(テールコート)」。
後ろの裾が燕(つばめ)の尾のように長く割れた、最も格式の高い夜の装いです。
ただ正直に申し上げると、いまの日本で燕尾服を着る機会はごく限られています。
格式高い夜の式典や叙勲など、本当に特別な場面だけ。一般の方が着ることはほとんどありません。
準礼装 タキシードとディレクターズスーツ

準礼装は、正礼装に次ぐ格の装いです。
夜の準礼装が「タキシード」。
拝絹(はいけん)と呼ばれる光沢のある襟が特徴です。夜の結婚式やパーティーで着られます。
華やかさと格式を兼ね備えた装いです。


▲ 上着にグレーのベスト、ストライプのコールズボンの3点の組合せ
昼の準礼装が「ディレクターズスーツ」。
黒の上着に、グレーの縞柄のスラックスを合わせます。昼の式典などで着られる装いです。
略礼装 ブラックスーツ

略礼装は、最も軽い礼装です。
その中心が「ブラックスーツ」。
黒の無地で仕立てた、いわゆる「礼服」として最も広く着られている一着です。
結婚式、葬儀、法事と、昼夜を問わず、幅広い場面で着られます。
いまの日本では、冠婚葬祭のほとんどがこのブラックスーツで対応できます。
なぜそう言えるのか。次の章で詳しくお話しします。
3. 今、最も着られている礼服はどれか?
ここまで読んで、こう思われたかもしれません。
「種類は分かったけれど、結局、自分は何を着ればいいのか?」と。
いちばん知りたいのは、そこですよね。
正直にお伝えします。
いまの日本では、冠婚葬祭のほとんどが略礼装の「ブラックスーツ」で対応できます。
かつては、結婚式に招かれれば準礼装をというように、格式が重んじられた時代もありました。
ですが、時代とともに装いはゆるくなっています。
いまでは、一般の参列者であれば、結婚式も葬儀も法事も、深い黒のブラックスーツが一着あればまず困ることはありません。
もちろん、例外もあります。
たとえば、ご自身がお子様の結婚式で、新郎新婦の父親として出席される場合。
このときは、主役に近いお立場ですから、モーニングコートを着るのが正式とされています。
また、ホテルでの格式高い夜の式典に招かれた場合などはタキシードが求められることもあります。
つまり、こう考えていただくと分かりやすいです。
・普段の冠婚葬祭は、ブラックスーツ。
・自分が主役や主催に近い立場になったとき、特別に格式が求められるときだけモーニングやタキシードを考える。
まずは一着、きちんとしたブラックスーツを持つ。
そこから始めるのが、いちばん現実的で間違いがありません。
4. 礼服選びで迷いやすいポイント
礼服について、お客様からよくいただく疑問が、いくつかあります。
ここで、まとめてお答えします。
「黒の礼服を、普段のビジネスでも着てもいい?」
「せっかく礼服を作るなら、普段のビジネスでも着回せないか?」
そう考える方は、少なくありません。無地のスーツですから、もったいなく感じるのも分かります。
ですが、正直に申し上げると、わたくしどもはおすすめしていません。
理由は、いくつかあります。
まず、真っ黒の無地は、普段のビジネスで着ると、どうしても重い印象になります。
人によっては「お葬式の帰りだろうか」と受け取られてしまうこともあります。
ネクタイの合わせも、難しくなります。
真っ黒の無地はフォーマルの色ですから、普段使いのネクタイと合わせるとどこかちぐはぐな印象になりがちです。
そして、もう一つ。これが実は、いちばん大切な点かもしれません。
礼服を普段から着てしまうと、生地が少しずつくたびれて、いざという場面で困ることになります。
結婚式は事前に分かりますが、葬儀は突然やってくることも少なくありません。
そんな日に、クローゼットから出した一着がヨレヨレでは格好がつきません。
礼服は、ここぞという場面のためにきちんとした状態にしておきましょう。
このあたりの違いについては、こちらの記事でも詳しくお話ししています。
あわせてお読みください。
「平服でお越しください」と言われたら?
案内状に「平服で…」とあると、迷う方が多いようです。
ここでいう「平服」は、普段着のことではありません。
「かしこまりすぎなくてよい」という意味で、略礼装にあたるダークスーツ(濃紺やダークグレー)が適切です。
「礼服は何着持っておけばいい?」
まずは、ブラックスーツを一着。
これがあれば、日常の冠婚葬祭はほぼ対応できます。
そのうえで、お子様の結婚式など特別な場面が控えている方は、モーニングなどを検討する。
そういう順序で十分です。
ただ、会社関係のお葬式などが多い方は、シーズンごとの略礼服を用意するのもおすすめです。
・春と秋と冬に着られるスリーシーズン用の礼服
・夏の暑い時期用の通気性の良い「夏礼服」
5. 10年先も着られる礼服の選び方
正礼装や準礼装は着る機会が少ないため、レンタルされる方がほとんどです。
一方、略礼装のブラックスーツは着る機会が多いので、こちらは準備しておきましょう。
選ぶ際のポイントは3つです
5-1. サイズ
礼服は、購入から5年〜10年着ることを想定してサイズを選びます。
礼服におしゃれは不要ですので、細身のシルエットよりも、少し余裕のあるサイズ感が適しています。かといって、大きすぎるのもいけません。
スラックスはウエストにアジャスターが付いていると、多少体重が変わっても調整が効くため、より長く着ることができます。
5-2. 生地
ポリエステルが混ざっていると、余計な光沢が出て、黒も浅くなります。
礼服を選ぶときは、ウール100%を選びましょう。
5-3. デザイン
上着は、シングルとダブル、どちらの形でもフォーマル度に違いはありません。ただ、昨今はダブルの礼服を選ぶ方はかなり少ない状況です。
スラックスの裾はシングルが原則。ダブルはカジュアルな雰囲気になるため、礼服では避けます。
5. 礼服は、長く着られる一着を
最後に、ひとつだけ。
礼服は、流行に左右されない装いです。
一度きちんとしたものを用意すれば、10年、20年と着られます。
だからこそ、その一着は、生地も仕立ても確かなものを選んでいただきたいと思います。
黒の無地は、生地の質がはっきりと表れます。
安価なものは、着るうちに黒が褪せてしまうことがあります。
長く着るものだからこそ、最初の一着を丁寧に選ぶ。
わたくしどもは、そう考えています。
礼服をオーダーで用意するという選択については、こちらの記事で詳しくお話ししています。
あわせてお読みください。
なお、当店では、ゼニアの黒無地の生地で、ブラックスーツやタキシード、モーニングをお仕立てしています。
ご興味があれば、いつでもご相談ください。

スプレーモ銀座店
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