スーツの裏地には大きく分けて、「総裏」と「背抜き」の仕様があります。
オーダーする際にはどちらかを選ぶのですが、どっちが良いのか迷う方が多いです。
これから買う人はどこに注意して総裏と背抜きを選べばいいのか。
お客様から質問の多い「総裏」と「背抜き」の違いと裏地のアレコレをテーラーの立場で解説します。
1. スーツにおける裏地(ウラ地)の意味
そもそもスーツにはなぜ裏地があるのでしょうか。
裏地には大きく分けて3つの役割があります。
・表地を補強して、型崩れを防ぐ
・汗を吸う、空気を閉じ込めて保温する
・すべりをよくして着心地を良くする
「丈夫になって着心地が良い」
これは、毎日着るスーツの重要なポイントです。
つまり裏地はあるかないかでいうと、あった方が確実に良いということです。
2. スーツの季節感
裏地の知識とともに、知っておかなければならないことがあります。
それはスーツの季節感。つまり普段何気なく着ているスーツにもシーズンがあるんです。
スーツの生地には、以下の4種類のシーズンに分けられます。
2-1 3シーズン用のスーツ
一般的なやや薄手のスーツ生地です。すべての基本で、お店によっては「オールシーズン」や「通年もの」という言い方をする場合もあります。
2-2 春用のスーツ
春用の生地は3シーズン用に比べて薄手で、通気性のいい生地が多いです。生地に加工がされていて暑く感じにくくしている生地もあります。
2-3 夏用のスーツ
平織りという通気性の良い織り方で作られた生地。リネン(麻)やモヘアを混ざっている生地もあり、より涼しく感じられる素材感です。シアサッカーや鹿の子などサラッとした肌触りの生地もあります。
2-4 冬用のスーツ
3シーズン用と比べたときに生地自体に厚みがあり、表面がふんわりと起毛したものもあります。見た目もさわり心地も温かみを感じさせます。
以上の4つがシーズンごとの生地の説明です。
あなたが持っているスーツはどれに当てはまるでしょうか。
ここで注意したいのは、夏用のスーツを秋冬に着たり、秋冬用スーツを夏に着てしまうと、まわりからは季節感のない無頓着な人だと思われてしまいます。
裏地選びは季節が関わってくるので、このスーツ生地の季節感も前提条件として押さえておきましょう。
3. スーツの裏地の総裏とは?
総裏とはジャケットの内側全面に裏地が貼られている仕様です。
スーツは通常この仕様が多いです。保温性がアップするほか、生地の透けを防止する意味もあります。
3-1 裏地を総裏にした際のメリット
メリット① 裏地を付けることで型崩れを防げる
裏地をつけることで裏から表地を補強し、シルエットをきれいに保つ役割を担っています。特に繊細な生地の場合はこの役割が大きくなります。
メリット② 裏地を付けることで表地を守る
ジャケットを椅子などに掛けておくときに、細かな汚れなどから表地を守るために上の写真のようにかけるのがベターです。その際、裏地があるないで守れる面積が大きく変わってきます。
ジャケットは着用していると背中の内側が擦れます。また、汗をかいて表地にまで染み込んでしまうとその部分から傷みやすくなります。これらの場合にも裏地をつけることによって表地を守ることができます。
メリット③裏地で温度と湿度の調整
内側に裏地という生地が一枚増えることによる保温効果があるため、秋冬のスーツでは総裏が活きてきます。
また、高価ですが、キュプラの裏地は吸湿性があるので、背中のムレを軽減させるので快適に着ることができます。
3-2 スーツの裏地を総裏にした際のデメリット
デメリット① 裏地を付けることでムレる
「総裏=暑い」というイメージをお持ちの方もいるかもしれませんが、正確には「ポリエステルの総裏=暑い」が正解です。
ポリエステルは吸湿性がない分、汗を吸わないので湿気がこもりやすいです。暑がりの方は、一度裏地の素材を確認してみましょう。上着の内ポケットの中に付いている洗濯表示の札に裏地の素材が書いてあります。
デメリット② 裏地を付けると真夏は暑い
キュプラ素材は吸湿性があり快適と述べましたが、それでも真夏はさすがに暑いです。
真夏の外回りなどで使うスーツであれば、背抜きのほうが涼しく快適です。
3-3 こんな時はスーツの裏地は総裏がオススメ
① 3シーズン用スーツと冬用スーツの裏地
総裏のメリット③で紹介したように、裏地には体感温度を調節してくれる機能があります。気温の変化の激しい春や秋では、よっぽど暑がりの方でない限り総裏をおすすめします。
② 高級な表地のスーツ
高級な表地は繊細です。繊細な生地の場合は、総裏のメリット①と②でお話しした理由から総裏をおすすめします。高級なスーツを長持ちさせるためには総裏です。
4 スーツの裏地 | 背抜きとは?
背抜きは裏地の背中の部分を半分~3/4ほどなくした仕様で、こうすることで通気性を高めています。
「じゃあ、春夏と盛夏用は全部背抜きでいいじゃないか」となりそうですが、背抜きが適さないケースも存在します。
そこには落とし穴があるので、まとめて解説していきたいと思います。
4-1 裏地を背抜きにするメリット
メリット① 裏地がないと涼しい
背抜きは裏地がないので通気性が上がり、涼しく感じることができます。
メリット② 裏地がないと軽くなる
裏地の面積が減っているので、ジャケットの重量は軽くなります。
劇的に変わるわけではありませんが、軽量な夏物生地と合わせて軽やかな着心地にすることができます。
4-2 裏地を背抜きにするデメリット
デメリット① 裏地がないと表地が傷みやすい
裏地は表地を守るということは先ほど説明しましたが、汗や擦れが生地に直接あたることで表地は傷みやすくなります。また、総裏と比べてスーツの型崩れも発生しやすくなります。
デメリット② 裏地がないと背中部分が透ける
春夏用の生地は薄いので透ける場合があります。上の画像のように透けてしまうと、背抜きということがまわりの人にわかってしまいます。
「背抜き=春夏」というイメージがあるので、冬のビジネスシーンでは個人の感性で安っぽいと思われてしまうことがあるかもしれません。
4-3 こんな時は裏地は背抜きがオススメ
その① 真夏用のスーツの裏地
真夏は背抜きの方が間違いなく涼しいです。夏にしか着ないスーツとして買うのであれば、背抜きを選んだ方が快適です。
その② ポリエステルの裏地のスーツ
ポリエステルの裏地は安価なのですが、ムレやすいという特徴があります。
夏用のスーツでポリエステルの裏地を使う場合には、背抜きにすれば暑さは多少軽減されます。
まとめ
いかがでしょうか。裏地の選び方でスーツの着心地や持ちが違ってきます。
また、暑がりの方とそうでない方でも裏地の選び方は変わります。
ぜひ参考にして快適なビジネスライフをお過ごしください。