「そのスーツのデザイン懐かしい!トレンディドラマみたい!」
と同僚の女性から言われた。
更に、芸人が笑いのネタとしてバブル時代のスーツを着てウケていた。
「ひょっとして、このスーツって時代遅れ?」
バブル時代、男女問わず大きい肩パットの入ったスーツを着ていたので、それが時代のイメージとして根付いています。
この記事ではこの肩パットに焦点を当てて、肩パットがもつ印象と役割をご紹介します。
肩パットを理解すればスーツ選びの失敗が減りますので、是非参考にしてみてください。
1. スーツの肩パットの役割とは?
こんな言葉があります。
「スーツは肩で着る」
つまり、肩はスーツ選びにおいて、印象を左右するとても重要なポイントだということです。
まず前提として押さえておきたいのは、なぜジャケットには肩パットが入っているのか?ということ。それには大きく分けて2つの理由があります。
理由① スーツの肩回りの補強
肩回りに肩パットが入ることで、肩回りが型崩れしにくくなるという効果があります。
肩はとてもよく稼働する体の部位です。補強することで、長い間綺麗なシルエットを保ちます。
理由② スーツの見た目を良くするため
肩パットによって、ジャケットのシルエットはより立体的になり、見た目に貫禄が出ます。肩パットがないと、着ている本人の肩の形がそのままシルエットに出ます。
例えば、極端な撫で肩の人が肩パット無しのスーツを着ると、「ちょっと肩の力抜きすぎてない?」と思われてしまうかもしれません。
つまり、スーツを着る場面にふさわしい威厳のある見た目にするために、肩パットは一役買っているのです。
2. 肩パットの薄いスーツが流行?
現在日本で流通している高級スーツの多くはイタリア由来のブランドです。イタリアのスーツは肩パットが薄く、着心地が軽くなるように仕立てられています。
昔は肩幅が広く、分厚い肩パットのスーツが主流でした。しかし、段々と薄い肩パットのスーツが主流になりました。
実際に筆者が着比べてみました。
右が2000年代前半のスーツ、左は2020年に仕立てたスーツです。
どちらもジャストサイズなのですが、ジャケットの肩パットは2000年前半のスーツの方が分厚いです。また、肩パットが分厚い前提の寸法なので、肩幅も広めに作られています。
スーツにも流行はあります。
時代と共に肩パットが薄く、そして肩幅は狭くなっていることが分かります。
今っぽく見せたいのであれば、肩パッドは薄く、そして肩幅は狭くした方がいいですね。
3. 今選ぶなら?最新の肩パット事情
肩パットが入っていないスーツもあります。3つのアイテム別に肩パットの最新事情を解説します。
3-1 スーツの肩パット
ここでのスーツとは、基本的にカッチリしたお仕事や冠婚葬祭で着るようなフォーマルなスーツのことを指します。
見た目としてほとんどわかりませんが、「肩パットの役割」の補強や、構築的な見た目にする意味で2mm程度の薄い肩パットが入っています。
「今っぽくてお洒落なスーツ」という印象にするのであれば、ある程度薄めの肩パットを選ぶのがベストです。
3-2 カジュアルスーツの肩パット
カジュアルスーツとは、名前の通りカジュアルシーンで着用するスーツを指します。
主に素材はストレッチの効いたコットンや化学繊維が使われます。
スーツと区別するために量販店ではセットアップと呼ばれることもあります。
カジュアルスーツは基本的にカッチリし過ぎないキレイめスタイルと、着心地の軽快さが売りなので、肩パットは入っていないことが多いです。
上の写真も肩パットは入っていませんが、作りがしっかりしていれば綺麗な肩回りが演出できます。
しかし、カジュアルスーツはあくまでもカジュアル。
大事な商談やプレゼンテーションでは好まれない傾向にあるので、着用する場面に注意したいですね。
3-3 ジャケットの肩パット
ここでのジャケットとは主にジャケット単品のことを指しています。
ビジネスカジュアルなどでジャケットにチノパンを合わせる「ジャケパン」という言葉を耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。
他にもちょっとしたお出かけにも使える便利なジャケットですが、こちらも最近は肩パットを入れない傾向にあります。
最近はアンコンジャケットと呼ばれる、肩パットがなく、シャツ袖(マニカ=カミーチャという場合もあります)と呼ばれる肩の付け根にギャザーの入った気楽に着用できるものが主流です。
4. スーツの肩パットは薄すぎてもダメ?
現在の主流は薄い肩パットのスーツと、肩パットなしのジャケットが主流だということが分かっていただけたと思います。
しかし、単純に肩パットを薄くすればカッコよく見えるかというと、そうでもありません。
「肩パットの役割」でも述べたように、肩パットは体型を補う役割もあります。
特に撫で肩の方は注意が必要です。
我々テーラーはお客様の体型に合わせて肩パットの厚さを変えることがあります。
左の×の画像では極端な撫で肩のため、背中にシワがよってしまいスーツが貧相に見えてしまいます。
右の〇画像のように自分の肩に合うパットを入れると、シワが消えてカチッと見せることが出来ます。
カジュアルの場合は気にしなくても大丈夫ですが、フォーマルなスーツの場合は自分の体型に合わせて肩パットを入れると見た目を格上げすることが出来ます。
5. 昔のスーツ、肩パットを抜けば今でも着れる?
「昔のスーツ今でも着られるの?」という疑問。
正直、避けた方がいいでしょう。
肩パットは抜くとしても、きれいに取り除くのはお裁縫上級者でもなかなか難しいです。
お直し屋さんを使うという手もありますが、難しいお直しなので値が張ります。それに、今っぽい雰囲気になるかというとそうではありません。スーツの流行は肩パットだけではないからです。
目立つ肩はもちろんですが、襟の大きさやボタンの位置、袖の太さなど全体的なシルエットなど様々な部分で今と昔では主流が異なります。
となると、肩パットを抜いただけでは、今のスーツに近づけることは難しいのが正直なところです。
6. まとめ
いかがでしょうか。肩パットの重要性と、最近のスーツの事情がお分かりいただけたでしょうか。
もしも肩のシルエット、肩ワタのことに疑問があれば、店員やフィッターにきくのもいいでしょう。
ちょっとした部分に注目してスーツを選ぶだけで、見た目は別物になります。
次回、スーツを新調するときは、ぜひ肩まわりにも注目して選んでみましょう。